最近観た映画『ルンタ』
池谷薫監督最新作『ルンタ』 オフィシャルサイト
溜めていた映画の感想文第3弾。
チベットには前から関心があって、映画やってると聞いてどうしても観たかったのです。行ったことのない国。吸ったことのない空気。ニュースで漏れ聞くだけの、ダライ・ラマ法王のインド亡命と、中国のチベットへの宗教と文化的弾圧。
映画を通じてそれらを垣間見られたらいいな、と思いました。題名の『ルンタ』はチベット語で風の馬という意味だそうです。チベットの人たちは、丘や山の上にのぼると、幸せを祈って馬の絵が印刷された色とりどりのハンカチ大の紙を、風にのせてばら撒くのだそうです。
この映画を一言でいうと
中国政府による宗教弾圧、民族に対する圧政に抗議して、焼身自殺を図るチベット人たちの様子を追うドキュメンタリー映画。
こんな人におすすめ
個人的感想
チベットの広大な自然風景はあくまで美しく、そこに生きる人たちの太陽に照らされた瞳の輝きのまっすぐさが印象に残ります。一方で、この美しい大地で真摯に生きる人たちの自由と文化が奪われた悲しい現実も厳然としてあるのです。
更に悲しいのは、受け入れがたい現状に対して異を唱えるチベット人たちの意思表示が、焼身自殺であることです。
20歳にもならない女学生が、または若い僧侶が、自分たちの言語や民族文化を奪われたくない、ダライ・ラマをチベットに帰してほしい、その主張をするために死を選ぶ。「利他」と「慈悲」を尊ぶチベット人にとって、焼身自殺は他人に被害を与えないなかで最もセンセーショナルな抗議方法だからなのだと思います。
一点不思議だったこと。この映画は日本人スタッフによる作品で、インタビュー以外は全編日本語でした。
本編中、チベット文化に感銘を受け、今も現地で迫害されるチベットの人たちの雇用サポートとしてレストランを作ったり、チベットの現状をSNS(チベットNOWというブログを更新しておられます。チベットNOW@ルンタ - ライブドアブログ)などで発信している中原一博さんという日本人男性が、ナビゲーター的な立ち位置で登場され、チベットにおける焼身自殺の現状を解説されます。
この方が何故、チベットに住む人々の苦悩にシンクロし、支援の手を差し伸べ続けているのかについて、本編中で説明はあるものの、途中、突然中原氏の日本の実家(普段は空き家で、いま売りに出しているそうな)が出てきて、一時帰国した中原氏が実家で日本食を食べ、寛ぐシーンが出てきました。このシーン、なんか意味があるのかな?「チベットの現状に精通した日本人がガイドする今のチベットの実態」についての映画だと思っていたけど、これが入ると一気に焦点が「チベット文化に並々ならぬ愛情を注ぐ日本人、中原氏」のPVみたいに見えちゃう。
そこがどうしても意図がくみとれなくて、咀嚼しきれない感は残ったものの、知らなかったことや見たことのなかった風景や聞いたことのない言語の音を聞いて、生きたことのないチベットの人々の人生を垣間見ることができたのは、自分にとってとても意義深いものでした。
それにしても、何故抗議の方法として、焼身自殺を選ぶのだろう…誰かに何かを伝える、という方法論において、それ以外に選択肢はなかったのかな。例えば、国外に出て、枠の外からその実情を海外メディアに訴えるとかできないのかな。経済的な問題が阻害要因となっているのだろうか…。
もし自分がチベットに生まれ育った人間だとしたら、今と同じような思考回路を持つとは限らないけれど、今の私には、「チベットに自由を」「ダライ・ラマ法王をチベットに」と叫びながら炎に巻かれて亡くなっていくまっすぐな瞳を持つ人たちのさまを想像するだけで、大量に切なくなる。
私には何ができるんだろうともどかしくなるけれど、知らなかったことを知ることもひとつの前進だと信じて、この映画を観られたことに感謝。