母の肖像
私の母は天然だ。
父と音楽記号の話をしていたら、会話に入りたくなったらしい母がドヤ顔で
「私も知ってる!歩く速度で、っていうのは、アルデンテでしょう!」
(正解はアンダンテ)
と華麗にカットインを決め、父親の「それはパスタ業界用語だね」という冷静過ぎるツッコミに笑いが止まらなくなったり、
実家で本を読もうと適当に本棚から本を取り出したら見開きのところに母の字で短歌が書いてあり、へー、短歌なんて興味あるんだーとそこを読むと
ひさかたの光のどけき春の日に しづこころなく花の散るらむ 紀貫則
と書いてあり、その場に膝から崩れ落ちたりと、楽しい瞬間を日々提供してもらっている。
そんな母の今日の天然ボケは、年賀状をプリンタで印刷したいがプリンタと接続できない何とかしてくれ、というリクエストに応えたら、そんな簡単にできるもんなら、ついでに原稿も編集してくれ、とリクエストが膨らみ、写真をもっと大きくしろ、ここにテキストを入れろ、という指示に従って編集していたら、
母「そこの文字のさー、フォント?っていうの?もうちょっとどうにかなんないの?」
私「どうにかって、具体的にどうしたいの?」
母「フォントのかたさを揃えられない?」
私「固さ…?」
すぐに高さの言いまつがいであることに気づいたものの、フォントの固さという言葉を冷静に考えたら段々可笑しさが込み上げてきて笑い転げていたら、私が何で笑っているのかわからないのに、母も横で笑っていた。
長生きしてほしいな、としみじみ思う。