読んだ本「でんでら国」

 

 

 

でんでら国

でんでら国

 
 

 

姥捨山の伝説を聞いたことがある人は多いと思う。足腰の弱ったおじいさん、おばあさんを山に捨ててきてしまう伝説。
 
この話を童話として読んだ小学生の私は、酷いことをする人もいるものだと無邪気に憤った記憶がある。「パンがないならお菓子を食べればいい」と言った、マリー・アントワネット的な怒りである。食べるものがない、食べなければ一家全員餓死する、と言う状況を想像したことのない、ナイーブな子供だった。
 
口減らしのために自分の両親を見捨てるのと、自分の子供に手をかけるのと、どちらがより罪深いのだろう。生きていくためには致し方のない選択なのだろうか。私には結論が出せないけど、少なくとも今の私には親を山に捨てる人のことも、泣きながら子供に手をかける親のことも、批判できる立場にはない、ということは理解できる程度に大人になった。
 
さて、この本はそんな重くて暗いテーマを抱えつつも、全体的にエンターテイメントとして楽しく読める本だ。
 
生きのびることと死ぬこと、子孫を残すことが絶対的優先事項だと思って読むと、8.6秒バズーカに「ちょとまてちょとまておにーさん!」と止められる感じで、軽妙に「生き延びることが一番大事って、ほんとにそうなのかな?」と思わせる話。
 
軽く楽しく読める話ではあるけど、高齢化社会に突入している今の日本に重ね合わせて考えると、とっても痛烈な皮肉も読み取れて、二重に面白い小説だった。
 
どう生きるかにひとつの普遍的な正解はないけれど、同時に自分の人生というのもたったひとつしかないというのは普遍的な事実なんだと分からせてくれる小説だった。