先日観た映画『キングスマン』

予告編が最高に面白そうで、「絶対観よう」と決めていた作品。あまりに期待ばかりが膨らんでいくので、期待だけ上回ってしまったら、と少し心配だったが、杞憂だった。

 

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↑思い切り007のパロディ的なポスター。

この作品を一言でいうと

王道スパイアクションをキワモノギリギリのところで映画化した、コリン・ファース主演作品。
 

こんな人におすすめ

下記のキーワードにビビっとくる人
-ブリット・ポップ
‐英国紳士
‐スパイ映画
‐ユーモア(特にイギリスの)
 

個人的感想

世の中にスパイ映画は数多くある。『ミッション:インポッシブル』シリーズしかり、『007』シリーズしかり、それ以外にもたくさんのスパイ映画やTVシリーズがかつて作られてきた。
 
多くのスパイをモチーフにした作品が世に出され、なおすたれずに新しく作られ続けるのは、そのモチーフが派手なアクションなどと親和性が高いため絵になりやすく、人々に受け入れられやすいというのもひとつあるが、生き残っているそれぞれの映画に魅力の違う主役が配され、また異なる見どころがあるからだと思う。
 
ミッション:インポッシブル』はイーサン・ハントをトム・クルーズが演じ、その超人と言っても過言ではないアクションの連続花火に目が釘付けになるからだし、『007』シリーズはジェームズ・ボンドというキャラクターは演じる人が変わっても生き残っていけるほど完成度が高い(それぞれの俳優で評価が分かれるのは、個人的な趣味があるからしかたないにしても)。
 
じゃあこの『キングスマン』がどんな見どころがあるのかというと、個人的には英国のユーモアだと思う。
 
階級社会に生きることを余儀なくされ(生まれた時から持てる者と持たざる者とに分断された社会)るイギリス人は、それぞれのサイドから描いた映画がいくつも作られているけれど、キングスマンに出てくる諜報機関を構成するメンバーは、持てる者(貴族階級)のほうにカテゴライズされている。強烈な選民意識を持ち、プライドが高く、他人にも厳しいが、自分にも厳しい。「自分は選ばれた者」という意識がある分、その特権を得る者の義務として、その分の責務(Do good)を果たすべきというのがNoblesse Obligeだ。
 
自分を律する術として、イギリス人が好むのがユーモアだ。うろ覚えだが、イギリス人のユーモアを端的に表した小話でこんなものがある。
 
あるイギリスの大学教授が、共にサイクリングを楽しんだ愛弟子の、先の世界大戦での戦死の報を受けたとき、驚くでもなく、嘆き悲しむでもなく、淡々と「これで、イギリスに余計な自転車がひとつ増えた」と言ったという。
 
ユーモアは現在では「笑い」と結び付けられて全体認識されていることがほとんどなので、「これ、笑えないけど」と思う人も多いかもしれないが、元来のユーモアは(説明が長くなるので割愛するが)「感情の動き」という意味をもつ言葉である。イギリス人のユーモアとは自衛手段として使われている感情の動きで、時に感情的になりそうな自分を律して、客観的に自分を俯瞰して眺めることで逆上しそうになる自分を抑えるための手段なのだ。
 
事実、この映画の中にもコリン・ファース扮する主役のハリーが「I've had a rather emotional day」と言いながら、非常にスタイリッシュに街のチンピラに制裁を下すシーンがあるが、イギリス人(の貴族階級)は、取り乱し、感情をあらわにすることを非常に嫌う。どんな状況でも冷静沈着で、常に理性的であることを美と思っている人種なので、感情が揺り動かされたとしても、それを表に出すのはカッコ悪いと思っているのだ。
 
ある意味、自分から自分を突き放して、「そんなことで動揺してどうする」と叱咤激励するためのツールがユーモアなのだと言える。
 
でも、そんなクールさを信条とする英国紳士のハリーが、詳細は観てからのお楽しみということで伏せるが、一回だけ他人にコントロールされてものすごい表情を見せるシーンがある。↓
 

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英国紳士もビックリ

 
多分、彼の一生の恥になるんだろうなと思う。そんなところも分かったうえであえて役柄のカッコ悪いシーンも入れる作り手の客観性が、たまらなくカッコ良いなあと思う映画だった。
 
 『マイ・フェア・レディ』でも描かれた二つの階級のあいだの超えざる壁と、庶民階級から特権階級へのステップアップ、イギリス紳士の独特のメンタリティ、それに加えてサミュエル・L・ジャクソンが好演したアメリカの頭悪そうなIT長者に象徴される戯画化されたアメリカ人への痛烈な風刺、それらがエンターテイメントとして楽しめる作品だなと思った。