「まれ」と「てっぱん」に見る共通点

最近、朝の連続テレビ小説を見るようになった。あれを楽しみにしてる親戚のおばちゃんらやおばあちゃんを見て育ったから、感慨深い。自分もその年になったんだなあとしみじみする。

でも全部が全部楽しみなわけではなく、見始めたけどノレなくて見なくなったのもある。「ごちそうさん」は姑の熾烈なイビリがいやになってやめてしまった。朝からなんで気分悪くなるもん見なきゃならないんだ、と思って。まあ、朝でも昼でも夜でも、見たくないんだけど。

さて、今やってる「まれ」、最初は主人公の子役が鼻について見るのをやめようかなと思いながら見ていた。子供なのにいい年して一攫千金の夢を追っかけてフラフラしてる父親(私の大好きな大泉洋)のせいで夢っていう概念が嫌いで、学校の作文に「地道にコツコツ働いて、公務員になりたいです」と書くような子供。

主役がいい子ちゃんで鼻に付く連ドラは「てっぱん」もそうだった。まっすぐ育って、黒いところが何もない笑顔全開でわーっと来られると、ひねくれた性格の私はいじめたくなる。でも毎朝見ていた。なんでだろ。

「まれ」は、主役のまれがやっぱり逆境に負けずにまっすぐ育ち、周りの友達や大人に愛されてすくすく成長しました〜っていうのが鼻に付く。でも鼻に付くのに、何故か泣いてしまう。なんでだろ。

考えてみたら、主役以外の登場人物がグッと来るんだということに気づいた。

お母さん

常盤貴子演じる、お母さんは、子供の頃から親と離れてずっとひとりで育ってきた。暗い子だった。なめられたくなくて、強くなりたくてボクシングを習っていた。でもずっと愛に飢えてて、やっと家族を持てて、大切な家族を何があっても守ろうと誓った。彼女が本当に強くなったのは、家族ができたときだと思う。

お父さん

一攫千金の夢ばかり見て、言うことはデカイけど何をやってもうまくいかずに失敗し、督促状ばかりが家に届く。本人も自分のダメさは自覚してるけど、どうにもできない。そこで自暴自棄になるほどクズにはなれなくて、誰より大切に思っている家族に恥ずかしくて会えなくなって行方をくらましたりする。

元治さん

一家が能登に移住したとき、住む家に困ったことから下宿させてもらう元民宿のご主人。今は塩田で昔ながらのやり方で塩を作ってる。不器用だし言葉数は少ないけど、本当は誰よりも一家のことを見ている。元治さんみたいな人と結婚したい。

文さん

元治さんの奥さん。基本は誰に対しても素っ気ないけど、愛情をうまく表現できないだけでほんとは誰よりも愛が深い。冷たい真面目な表情で突然面白いことを言うから吹き出してしまう。そんな文さんが、涙を拭きもせずに「いつでも帰ってきたらいい」なんて言ったら、泣けちゃうじゃない。

主役の女の子が鼻に付くのはなんでかなと考えてみたところ、ひとつ共通点があることに気づいた。

まれ=低姿勢なジャイアン

主人公が、どちらのドラマも悪い意味でわがまま。自分のやりたいことについて突き進むのはいい。壁にぶつかって落ち込むのも、ドラマとしてはお約束。その壁をどう乗り越えるかが見せ場なのに、主役の子は「これをやりたいんです!お願いします!お願いします!お願いします!」と壁に向かって叫ぶのみ。自分が何故それをやりたいのか、実現したらどんなことが起きて、壁になってる人物にどんないいことが起きるのかが論理的に説明できない。相手を説得できない。職場にこんな子がいたら絶対に仕事が滞る。(まあ似たような人はよくいるんだけどね)

でも、ドラマなので主役の勢いにゴリ押された壁は、そこまで言うなら、とかほだされちゃう。リアリティーがない。

そう、キャラクターに深みがなくて、ナイーブ過ぎるんだと思う。主役なのに。主役だからこそ、なのかもしれないけど。

もう私、死んじゃった方がラクかも?と思うような徹底的な挫折も特になく(見てる限りでは)、たまに挫折しても家族や周りの人が助けてくれて、仲間は大切!なんてキラキラした目で言う女の子は今時少女漫画にも出てこない。

さて、このタイミングでそれ言う?!という流れでカミングアウトすると、実は、まれは新卒の時の自分にそっくりだ。認めたくないけどな。

世界はわかりあえる!世の中にほんとに悪い人なんていない!頑張れば夢は叶う!みんな仲間!本当にそう思っていた。

そんな新卒が実際に入社したらどうなるか、想像しなくてもわかると思うけど、上辺だけの薄い付き合いしかしない同僚や先輩には「かわいいねー」なんて仲良くしてもらえて、でも一部の先輩からは強烈に嫌われていた。

あの子、胡散臭い。
絶対裏がある。腹黒い。

私が陰で言われていた評価はそんなんだった。(面と向かっては言われないから、当時は全然そんなこと言われてるのも知らず、キラキラした目で先輩に「何かお手伝いさせてください!」と言ってはドン引きされていた。)

その後、この子は裏があるわけじゃなくて単にウザくて単にバカな子ってだけなんだって理解してもらうまでやや時間がかかり、少しずつバカな子としてのポジションを獲得し、普通に溶け込めるようになった後、「実はさー、私、あなたのこと大嫌いだったんだよね」と先輩から笑い話として教えてもらうまで、自分がウザいバカで周りから冷たい目で見られていたのだということに全然気づいていなかったのである。その後、私を嫌っていた先輩たちは、一生付き合っていきたいと思える仲の良い先輩になった。

時間が経って、私もそれなりに「死んだ方がラクかも」的な体験をして、今、振り返るとあの時の自分を殺して自分も死にたいくらい猛烈に恥ずかしい。

だから、多分まれに強烈な反発を覚えるのは、近親憎悪なんだと思う。そして、泣いてしまうのは、まれの周りにいる人々に、バカでウザい自分を呆れながらも見守ってくれた私の周りの家族や友人や先輩に無意識のうちに重ねてしまうからだ。あー、いやだ。こんなこと気づきたくなかったなあ。