落語の勧め
新宿末廣亭の寄席に行きました。
寄席って行ったことない人にはハードル高いかもしれないけど、実はとっても敷居が低いのです。と言っても、私も初心者に2、3本毛が生えた程度ですが、初めて演芸場の寄席に行った時の緊張感は覚えています。入口で料金を払うのは映画館と一緒ですが、映画と違って好きな時間に入って好きな時間に出られます。昼から夜の9時まで全部違う噺家さんが出るので、好きな噺家さんが出る辺りだけ入っても良いし、元を取ろうと昼から夜までぶっ続けでいても大丈夫。
中でお弁当なんかも売ってるし、飲食も可能です(末廣亭はお酒はNGだけど、飲める演芸場もあります)。新宿末廣亭なんかは、両脇に靴を脱いで上がれる畳敷きのスペースがあり、そこで寝っ転がって聴いてるおじさんとかもいたりします。
子供向けの落語に力を入れたり、落語以外でもNHKアラビア語講座に出たり、舞台に出たり、精力的に活動しています。多分、伝統芸能であり、受け継いでいかなければならない落語という文化の認知度向上のために尽力されているのだろうな。
昨夜の演目は、文七元結(ぶんしちもっとい)。博打で身を持ち崩した男、長兵衛が、自分の娘が吉原の女郎屋に身売りして借りた大金50両を、橋で身投げしようとしている男に渡してしまう人情噺です。身投げ男は売掛金50両を預かって店に帰る途中で失くしてしまい、死んでお詫びしようとしているところ。長兵衛は、この50両を返せなかったら娘は女郎屋で身体を売らなければならなくなるけど、でも死ぬことはない。お前はこれがないと死ぬんだろう。生きててなんぼだ。だからこれをお前にやる。受け取れ!と無理やり押し付けて泣きながら走り去るという、落語全盛期当時は持て囃された江戸っ子気質の潔さ、カッコイイ!という流れをややオーバーに表現した噺です。
筋だけを追っていくと何てことはないストーリーなのに、花緑師匠一人で何人も演じ分ける熱演を聴いていると、だんだんと引き込まれ、涙腺がゆるんできてしまいます。
人情噺だから当然泣かせるものなんですけど、じーんとしてるところに突然抉るような鋭角で笑いをぶっこんでくるので、否応無く感情を揺さぶられます。泣いて、笑って、泣いて、笑って、泣きながら笑って、観客は既に花緑師匠の掌のうえで転がされるビー玉。かと思うと最後のサゲをあっという間の瞬殺で決めて頭を下げる、その腕の鮮やかさに、名人芸とはこういうことを言うんだなと感服しました。
人間は、泣いたり笑ったりという感情のアップダウンによって、随分リフレッシュされるものですね。涙活が流行るのもわかる気がします。