最近読んだ本「明日の子供たち」

有川浩さんの「明日の子供たち」を読んだ。

明日の子供たち

明日の子供たち



おそらく図書館戦争シリーズが最も代表的な作品だが、「フリーター、家を買う。」「県庁おもてなし課」など、映画化やドラマ化された作品の多い作家さん。



組織の中で生きる人間を描いたら天下一品の有川さんの、本作の舞台は児童養護施設。物語は会社員から一念発起して児童養護施設職員に転職した青年の第1日目から始まる。

下駄箱からはみ出し散らかった子供たちの靴を片付けようとして、先輩職員に咎められる主人公の青年。元どおりの散らかった状態に戻す先輩に「ちょっとくらい優しくしてあげてもいいじゃないですか。かわいそうな子達なんだから」と食ってかかる正義漢は、「90人の子供を毎日、〝ちょっとくらい〟優しくしてあげられるわけ?」と冷や水を浴びせられる。

養護施設に入っている子=親と一緒に暮らせない子=かわいそうな子という、私の中にある先入観を、荒っぽい外科手術で摘出してぽん、と目の前に見せられたみたいな、気まずさに襲われる。

「かわいそう」という言葉が昔から嫌いだった。近所のおばちゃんが、同級生の障害のある友達を見て「かわいそうにね」と言ったりするたびに猛烈に反発した。でも、その時はうまいこと自分の反発が何故生じるのかを説明できず、ただの時々癇癪を起こす子供に思われていた。

この本を読んだ今ならちゃんと説明できる。それを口にした瞬間に、言う側と言われた側に上下差が生じる気がする。恵まれないあなたに対しての、恵まれた私という構図。

「こんなに恵まれない立場の人が世の中にいて、その人たちを認識して同情してあげられる私って、エライ」感が透けて見える気がする。

この本の中に出てくる施設の女の子も「かわいそう」という言葉に異様に反応する。「施設にいるからって、かわいそうって思われたくない」と彼女は言う。確かに自分に置き換えて考えてみたら、住んでる場所や環境だけでかわいそう認定されるのは心外だ。かわいそうは不幸に置き換えられるのかもしれないけど、私が幸せか不幸せかは、自分で決めることだ。知らない誰かに、「あなたは不幸」と決めつけられたくはない。

と、書くと、憤りに満ちた本に思えるかもしれないが、さにあらず。この本に出てくる世間的にはカワイソー(棒読み)な子供たちは、それぞれ個性を持ちながらも、自分なりのアプローチで逞しく社会の荒波に立ち向かおうとする。その姿があまりにも爽やかであまりにもまぶしい。

有川さんの本でいつも「待ってました!」と言いたくなる、カタルシスを感じるシーンもちゃんと盛り込まれていて、読んでいて胸が熱くなる。

ともすればどんよりしがちな社会的なテーマを、茶化すことなく真正面から描いているのに、エンターテイメント小説として完成させるその手腕に感服の一冊だった。