昨日観た映画『ジュピター』

かつてラリーとアンディ兄弟だったウォシャウスキー兄弟。ラリーがラナになり、ウォシャウスキー姉弟になったのは、ちょっと前の話。

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トランスジェンダーの方の、肉体と精神の間で引き裂かれる、みたいなアンビバレントな苦しみは、女の私には、想像しかできない。


男でも、女でも、男や女というカテゴリーにあてはまらないひとでも、みんながしあわせになる世界を追求することを、「所詮、理想論。きれいごと」と言って諦める大人にだけはなりたくないなーと思う。そう言う考えの人が存在することを否定はしないけど、多分そういう人は、自分の人生のスパンでしか考えてなくて、自分の人生が終わるまでに何らかの結果が出ないなら、意味がないから何もしないって思ってるんだろうと思う。

そういうのって、本当に小さい頃読んだ昔話の、岩陰から見えるマンモスの尻尾を見て、あんな尻尾だからきっと弱い生き物に違いないと戦いを挑む人間の先祖みたいだな、と思う。これも想像ですけどね!

さて、長くなりましたがそんなウォシャウスキー姉弟の最新作を観てきました。

しかも、3D、4DX!

4DXとは、座席が動き、画面に合わせてミストや匂い、風が出たりすることで、より映像世界のなかに没入できるシステムです。東京ディズニーランドのスターツアーズみたいなものと考えたらわかりやすいかな。


3D映像で空間を自在に飛び回る大バトルを、4DXで宇宙空間の浮遊を体験なんてワクワクしませんか?

この映画を一言で言うと

壮大なSFアクション!虐げられて育ってきた移民のありふれた娘が、実は宇宙全体に君臨する王族の末裔だったというシンデレラストーリーの要素も。

こんな人におすすめ

圧倒的な映像美を楽しめる映画のため、SF超大作を好む人にはお勧めします。深く考えず、わーすごい!かっこいい!とデートや友達と、気軽に楽しめる映画だと思います。

個人的な感想

ウォシャウスキー姉弟の前作『クラウド・アトラス』が個人的にとてもよかったので、本作も期待大で観たのですが、なんか肩透かし。

世界中を席巻した『マトリックス』や『クラウド・アトラス』にあって、この『ジュピター』に欠けているもの、それは説得力です。

実は自分が普通に生きていたと思った世界は実は仮想空間で、本当の自分は首の後ろにコードでつながれて寝ているだけ、とか、クラウド・アトラスのように繁栄を誇る未来社会の底辺で、美しい商業用アンドロイドが栄養として摂取させられていたのは古くなって廃棄されたアンドロイドの身体から作られたタンパク質(=カニバリズム)とか、今回の『ジュピター』にも同じように繁栄の裏に隠された闇の部分は出てくる(ネタバレになるので詳細は書かない)けど、いかんせんその闇にリアリティーが感じられなかった。私はね。

マトリックスを観た時感じた「うわ!これ、もしかして私の生きていると思ってる世界も実は仮想現実で、本当の私は暗いところに寝かされてただ頭の中で現実と思ってる世界を体験してるだけじゃないのかな?」とか、クラウド・アトラスで、なんの疑いもなく与えられて摂っていた食事が、実は仲間のアンドロイドの身体から作られたもの、と知った時の背筋を走る冷たい戦慄とか、高い崖から下を覗き込むみたいなゾゾゾ感がなかった。

多分だけど、それは何故ならそれらが映像化されず、私の中で鮮烈に印象に残らなかったから。衝撃の事実は作品内のキャラクターが口頭で説明するのみに留められ、実際の事実がどのような人たちにどのように起きたのか、という映像はなかった。

想像力の乏しい人間なもので、顔もわからない人たちのつらい状況を、キャラクターの断片的な台詞だけで想像を膨らませるということが私にはできなかった。残念。

あとは、宇宙人のはずなのにみんな話す言葉は英語なんだね、とか、宇宙王族の末裔がどこに生まれたかってどうやって調べるんだろうとか、主人公は簡単に男を好きになりすぎじゃない?(これは私が人を好きになりにくい性格だからかもしれない)とかいろいろツッコミを入れたい部分はある。

けれど、細部まで作り込まれた映像やキャラクター設定は、いくらでもスピンオフが生まれそうなほどの精密さだし、巨大な宇宙船が浮かぶ宇宙空間の壮大さとか、そこに浮かぶ巨大コロニーの細かいところまで作り込まれた感じとか、クリーチャーのディテールとか、誤解を恐れず言葉を選ばずに言えば、この作品はオタクふたりがキャッキャ言いながら楽しんで作ったSF作品だなと思った。

「ここ、こうしたらかっこよくね?」
「うわ、天才!マジお前天才!つか、これどうよ?」
「あり!大あり!それしかない!」

みたいな会話が聞こえてくるようだ。ギークなふたりをスクリーンの向こうに想像してニヤニヤしながら観るのも、この映画の楽しみ方のひとつです。