こないだ観た映画『くちびるに歌を』

 新垣結衣主演の邦画、『くちびるに歌を』を観た。(ほんの少しだけネタバレしています)

この映画を一言でいうと

長崎は五島列島の離島にある中学校の合唱部と、合唱部の顧問も務めることになった産休要員音楽教師の心あたたまる青春映画。

こんな人におすすめ

今、まさに中学生や高校生の時間を過ごす若者にも観て欲しいけれど、何より価値を感じられるのはきっと、かつて中学生だったことのある人たちだろうと思う。

この映画を観ていたら、2013年末に公開した『ウォールフラワー』を思い出した。

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『ウォールフラワー』は公開時のキャッチコピーが“「ライ麦畑でつかまえて」の再来と絶賛”という打ち出しで、思春期の少年少女特有の感情の暴発や、静謐のなかで感じる刹那的な物哀しさを淡々と描いた青春映画だったと思う。

長い人生において、今、この瞬間にしか感じられないもの、に焦点を当てた映画だった。

『くちびるに歌を』も同じ匂いのする映画だった。たぶん、そういうものを描きたくて作った映画なんじゃないかなという気がする。

個人的感想

映像が美しい。海沿いの小さな町ののどかな自然の風景はもちろんだが、それに加えて、何処の中学校でも普通に見られるようなありふれた光景が時折ふと差し込まれ、それが涙が出るほど美しい。


校舎内の水飲み場の、銀色に輝く上を向いた蛇口。教室の窓から見える校庭の景色。渡り廊下の横に青々と茂る植栽。下駄箱の喧騒。掃除道具を両手にふざけ回る男子生徒の一群。放課後の廊下を軽やかな足音を立てて駆け抜けていく女子生徒の、揺れるスカートの裾。行き交う生徒たちの夏服の袖から伸びる健康的な腕など、かつて学生だった人々にとってはノスタルジーに満ちた映像ばかりだと思う。

当事者だった頃は当たり前だった光景が、今はもう二度と手の届かない、まばゆく輝く光景に思える。

また、ネタバレになっちゃうので詳しくは書かないけど、大体想像ができる展開だなあと思いながら観ていて、あー、そうだよね、ここ泣くポイントだよね、と思っていたら、最後の最後にぽんと出てきたエピソードが、私の予想の斜め上をいくものが出てきたのも快い裏切られ感だった。

生きていると、人生ではわりとつらいことが起きる。それは子供も思春期もそうだし、大人になってからも変わらない。

でも、暗闇の中に一瞬だけスパークする火花のような何か、それが人によっては大切なしあわせの記憶だったり、大好きな人のぬくもりだったり、何かを好きと思う気持ちだったりするのだろうけど、その火花が胸の中にある限り、人はまた立ち上がって、服についた泥や埃を払って歩き始められるし、笑えるし、時には歩きながら歌を歌うこともできるんだろうな。

本編中、合唱部員の持つ楽譜に練習の中でメモ書きするシーンがあり、少女特有の丸みを帯びた文字で五線譜の上に「祈るように歌う」と書き込まれた。

この映画は、人生を歩き続けるすべての人たちのしあわせに、祈りを捧げる映画なんだと思った。