帰る。なじめなさそうだから。

学生の頃、一個下のサークルの後輩にいさお君という男の子がいた。

背が高くて、黒髪のストレートロングをいつも一つに結んでいて、ヒゲ面で、ジーパンを履いた侍みたいだった。私の行っていた大学は男女問わずわりと小綺麗な人が多かったので、いさお君はキャンパスでも明らかに浮いていた(余談だが、格好のことだけで言えば、私もバンドTシャツにジーパンで、日向の芝生で昼寝したりしてたから同じ程度には浮いていたと思う。)でも、飄々としていて気はいい男の子だった。

一度、サークルの後輩たちとご飯でも食べようと言って渋谷駅で待ち合わせしたことがあった。いろんな人に当てずっぽうに声をかけていたから、誰が来るかわからなくて、そんなんだけどいさお君も来る?と聞いたら行く、というのでじゃあ一緒にいこー、と待ち合わせ場所に行ったら、見事にキレイめの女子ばっかりだった。きゃーきゃー、プリクラ撮ろうよ!いいねいいね、あそこのゲーセン新しいの入ってたよ!的な感じ。

私は性別は女性だが、女子成分が高めだとちょっと後ずさりしてしまう。私でもそうだから、いさお君大丈夫かなぁと思って隣に立ってる背の高いいさお君を見上げると、ニコニコして女子達を見守っていた。まるで幼稚園の園長先生みたいに。

あ、大丈夫なのかな?とちょっとホッとしてから、あ、逆にハーレムだな、嬉しいのかもな!と勝手にニヤニヤして、じゃあ移動しようか、とひよこの群れみたいなさえずりがかしましい後輩女子軍団に声かけたら、いさお君がニコニコしたまま、ひとこと言った。

「俺、なじめなさそうだから帰るね」

えっ、ニコニコしてたのに?
呆気にとられたまま、今来た道を歩いていく背中を見送っていたら、後輩の女の子が、確かに男子一人じゃ居心地悪いかもね〜?と言った。

呆気にとられたまま、私はめちゃめちゃ感動していた。断る理由って、そんなでもいいんだ。嘘の用事をでっち上げたりしなくてもいいんだ。なじめなさそうって、相手に感じ悪いと思われそうな気がするけどそうでもないんだ。

私は典型的な日本人で、NOと主張できない性格なので、その潔さがすごくカッコよく見えたんだと思う。

何でそんなことを今日思い出したかというと、今日約束した飲み会が全く気乗りしない約束だったけど、相変わらずNOと言えなくてずるずる参加することになってしまったから。

結果、やっぱりなじめなかった。大人数で、大声で喋らないと隣の人に声が届かない飲み会はやっぱり苦手。次回はもう、キッパリ断ろう。