センチメンタルサタデーナイト

冷え込む土曜日の夜。

気の置けない先輩と友達と三人で、ブレードランナーみたいな退廃的な雰囲気のネオンが輝く新大久保の街でチムタクを食べる。

新大久保は、ブレードランナーっぽいなあといつも思う。道ゆく人は、欲望を顔面に露わにしたナイーブな人間か、その欲望を食べて生きている鋭く冷たい目つきの人間か、大体その2種類しかいない。私は前者。果てることのない欲望のうねりが街の暗闇で蠢いていて、それはどんなに明るい照明や派手な色彩の看板でも、完全に覆い隠すことはできないところが似ている。

チムタクが一般的な韓国料理かどうかは知らないけど、いつも行くお店の看板メニューで、鶏肉とじゃがいもと春雨とあといろんな野菜を甘辛く炒め煮にした食べ物だ。説明するとなんてことない料理なのに、一回食べると、なんか薬が入ってるんじゃないかと思うくらい中毒性があって、年に何回かたまらなく食べたくなる。

ヨガの後だから、普段よりカロリーの吸収もいいはずだけど、構わず食べ倒す。後ろめたい快感。

お腹いっぱいになったら、駅前の寂れた喫茶店に移動して、コーヒー一杯で世界一どうでもいいことについて喋り倒す。昔一緒に働いてた会社のおじさんの言動は、今の社会ではセクハラ的観点からことごとくアウトだったこととか。今の仕事をクビになったらどこで働きたいかとか。私がこないだ旅行に行ったインドの珍道中とか。世界一どうでもいいことだけど、私にとっては世界でいちばん笑えておもしろいことだ。

閉店まで粘って店を追い出されると、外気は鋭く冷たくて、身を切るような寒さですらもなんだか面白くて、久しぶりに散歩に出た犬みたいに、競争するように、転がるように駅に向かう。

あー、今日はもうすぐお別れだなって名残惜しくなるけど、それは絶対に顔に出さない。名残惜しすぎて、「ねえねえ、明日も遊ぼうよう」というセリフが込み上げてくるのを我慢して飲み込む。

平気な顔をして、笑って手を振って別れて、人工的なネオンの街から離脱する。1人も知ってる人がいない電車の中で、友達との他愛ないやり取りに一人でニヤニヤしながら帰る。

こういう時間があるから、大した能力のない行き遅れの独身女でも、何とか生きていけるなあと思う。ありがたいことに、私はいま、とてもしあわせな気持ちでいっぱいだ。