犬の独白

私はもしかして自分は前世で、犬だったんじゃないかと思う時がある。

今、実家にいる柴犬は、室内で暮らすいわゆるお座敷犬、またの名をバカ殿犬のため、そういう行動はあまり見たことがないけど、その前に一緒に暮らしていた柴犬のタロは基本的に外犬だったので、よく自分の食べ物、主に骨を庭に穴を掘って、中にしまった骨に鼻先で土をかけて埋めていた。

話がそれるけど、このタロという犬はバカ殿犬ではなく、生粋のバカ犬だった。
バカという文字を生き物にしたらタロになるだろう、と思うくらいバカだった。

母が買ってきた総菜屋さんの焼き鳥を、玄関に置いてしばらく目をはなしていたら、ビニール袋の中の焼き鳥が一本もなくなっていたことがある。もちろんタロの仕業である。びっくりして袋の中を探ったら、さらに驚いたことに串もなくなっていた。一緒に食べてしまったらしい。まるごと串を飲み込んだわけではないにせよ、とにかく噛まずに食べる犬だったから、串の切れ端が胃にささって大変なことになるのでは、と家族はしばらく肝を冷やした。

そんな風にバカだから、埋めるだけ埋めて大事にとっておいた骨を、タロが掘り出して回収するところは見たことがない。たぶん、埋めたことさえ覚えてなかったんだろうな、と思う。あそこに埋まってるのにねえ、と声をかける私を横に、タロはわりといつもご機嫌さんだった。もしかしたら、埋めること自体が楽しくて、骨そのものには興味がなかったのかもしれない、と思うくらい、潔い忘れっぷりだった。

いっぽう、人間であるはずの私は食べものを買ってきて、冷蔵庫や戸棚にしまって、買ってきたことを忘れる。先日、ガリガリ君のシュークリーム味というのを店頭で見つけて興奮しながら買って帰ってきて、冷蔵庫を開けたら、すっかり忘れていたパピコのバナナ味が出てきた。

これは新発売の時期に店頭で見かけて買った記憶がある、と思って発売時期を調べたら去年の11月だった。ざっと半年、冷凍庫で静かに眠っていたことになる。

こないだ麦茶のパックをしまおうと戸棚を開けたら、見覚えのないカラフルな色使いの物体が目に留まり、手にとってみたら缶詰だった。いなばのタイカレーの缶詰。引っ越し直前に、前住んでいた場所の近所にできたスーパーでこの缶詰が安売りしてて、「いなばのタイカレーの缶詰はめっちゃ美味しい」と誰かから聞いたのを思い出して、3個買ったのだった。結果、一個も食べていない。

戸棚を閉めてから、「お前は犬か」と独り言を言ったあと、ふと、犬ならまだいい、と思った。会社の先輩に、「お前の脳みそはニワトリ以下だな。虫だ虫!」と冗談交じりだけど半分冗談じゃない感じでお叱りいただいたことがあるので、虫に比べたら、犬は上等だ。

犬は自分に納得したかのように何回か頷き、黙って麦茶を飲んだ。